全損保2025春闘 賃金討論集会
11月23日、全損保は東京千代田区で2025年春闘 賃金討論集会を開催しました。集会では、「25春闘をどう闘うのか~24春闘を振り返り労基研報告に抗うために~」をテーマに毎日新聞記者で元新聞労連委員長の東海林智氏から講演を受けました。
東海林氏は、冒頭1995年に当時の日経連の報告書「新時代の日本的経営」を解説。同報告が労働者を正社員、専門能力活用型従業員、雇用流動型従業員に再組織することを提起したと説明。その結果、当時正規雇用80%、非正規雇用20%だった割合が、2024年には正規雇用60%、非正規雇用40%と、非正規労働者が大幅に増大したと指摘。
正規労働者と非正規労働者の分断だけではなく、正規労働者同士、非正規労働者同士をも分断し、ハラスメントの横行、過労死・過労自死の増加をもたらしたと説明しました。
「新時代の日本的経営」は日本の国際競争力を取り戻すことを目的としていたが、非正規雇用の増大によって労働者総体の賃金を引き下げられ、正規労働者の賃金引き上げにはつながらなかったと批判。
東海林氏はさらに現在、労基法の見直しの動きがあること説明しました。今日、非正規労働者、派遣労働者が増加しただけではなく、雇用労働者と見なされないフリーランサーなどが増加したことによる“多様な働き方”に対応するとして、労使の合意があれば労働基準法の適用除外を可能にする労基法を解体する動きを紹介。
この動きに対して東海林氏は、労働基準法は労働条件の最低基準を定めたもので、違反には刑罰を科す強行法規であり、労働基準監督官は逮捕権を持つ司法警察官でもある。その労働基準法に「労使の話し合い」による“デロゲーション”(適用除外)を設けることは、刑事罰の対象となる犯罪行為を加害者と被害者の合意で適用除外とすることになると指摘。労働基準法を解体する動きへの警戒を訴えました。
また、東海林氏は24春闘で5.10%の賃上げが実現し、5%以上の賃上げは30数年ぶりとされていることに対し、今年5.10%の賃上げを実現したのであれば、これまでも実現できたはずだということを示している。連合は生産性3原則に基づいて春闘をおこなってきたが、その生産性原則の中で最も重要なのは「公平な分配」だが、労働者の実質賃金が停滞する一方で、企業の内部留保が巨額に積み上がリ続けたことは「不公平な分配」の結果だ。5.10%の賃上げのうち2%は定期昇給分で3%程度の賃上げでは物価上昇分に追いついてはいないと批判。
連合幹部は24春闘を「大勝利」と言っているが大勝利と言えるのか、と疑問を提起。連合の要求「5%以上」は本当に労働者の要求だったのか。ドイツの裁判所は、スト権を立てずに賃金交渉に臨んだ組合幹部に「ストライキ権を立てずに行う賃金交渉は『集団的な物乞いである』」と判示している。日本製鉄では3万円(2年分)の要求に対して35000円の回答が出されたが、経営の出せるギリギリの要求ではなく『控えめの要求』だったのではないか。
以上のような疑問を提起し、氏は要求を超える回答が出されたことは恥ずべきことではないかと批判しました。
その上で25春闘について、24春闘で賃金引き上げが十分可能であることが示されたとし、労働者の切実な要求を結集して積極的に要求することを訴えました。
東海林氏は新聞労連の委員長経験をも振り返りストに取り組む意義を説明しました。新聞労連のスト権投票は90%以上の賛成を得ているが、それは組合幹部から職場の役員までが組合員に呼びかける、様々な意見や反対の声と話し合いを行うことの結果だとし、大変な労力の取り組みだが、組合員への働きかけが労働組合を強くすると強調しました。
以上のように述べて東海林氏は社会的に注目されたそごう・西武労組のストライキを説明しました。連合傘下のUAゼンセンに加盟するそごう・西武百貨店の労組が昨年8月に池袋本店で1日のストライキに突入しました。そごう・西武労組を含む百貨店労組は、ストライキを行わない労働組合であり、労使協調によって徹底した団体交渉で問題解決をはかってきた労働組合だった。
今回ストライキに突入したのは、そごう・西武百貨店の親会社セブン&アイ・ホールディングスによる外資への売却が契機となっている。そごう・西武の売却が報じられてもセブン&アイ・ホールディングスは、そごう・西武の労働者と雇用関係がないと団交出席を拒否していたことから、労働者の雇用に関わる重要な問題で団体交渉が機能しない状態に陥り、団交を機能させるために、そごう・西武労組はスト権確立を提起した。大規模百貨店でのストライキは阪神百貨店のストライキ以来61年ぶりのこと。
組合員に組合幹部は全国オルグを繰り返します。動画を作成し組合員を集めて討論の場で「ストでお客様に迷惑をかけるのは1日か2日だが、売却で店がなくなれば永遠に迷惑をかける」「自分たちが知らないところで、職場が売却されるのは労働者の誇りを奪うものだ」などと訴えました。
また、池袋店前で組合員が「池袋に百貨店を残しましょう」と市民向けに署名活動を展開し、その署名を持って豊島区の区長に支援を要請。豊島区長が支援を表明しています。
スト権を確立するとセブン&アイ・ホールディングスの社長はじめ会社幹部が団交に出席し売却に関する情報が明らかにされました。しかし、売却を撤回しなかったのでストライキに突入しました。
結果として売却は撤回されなかったが、売却後に雇用問題が発生した場合親会社で相当の人数を引き受けるなど確認。東海林氏は、新しいオーナーもストを打ち抜いた労働組合に誠実に対応していると説明し、ストを打つのは簡単ではないがストを打つための労力は組合活動そのものであり、失敗しても成功してもストを打つ取り組みが組合を強化し団結が高まると強調しました。
講演を受けて長塚健一郎賃対部長(日新支部)から「要求討議の進め方 2025春闘に向けて」の提起を受け、分散会で東海林氏講演の感想、各支部の取り組み等を報告、交流しました。
<東海林氏近著紹介「ルポ低賃金」地平社刊 本体1800円+税>